『みんな鳥になって』

『みんな鳥になって』(みんなとりになって)は、岡本健一が出演した舞台作品。レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワド作の戯曲を、演出家・上村聡史の手で舞台化した現代演劇作。2025年6月28日から7月21日にかけて、東京・世田谷パブリックシアターで初演された。本作は、世田谷パブリックシアターがこれまで上演してきたムワワドの「約束の血」シリーズの第4弾に位置づけられ、同シリーズの前3作『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』『森 フォレ』に続く作品となる。

本作は、ワジディ・ムワワドが2016年にパリ・国立コリーヌ劇場の芸術監督に就任する際に発表した作品であり、その後も再演を重ねられてきた彼の代表作の一つである。ムワワドの人生の集大成ともいうべき密度の濃い作品とされており、世田谷パブリックシアターで上演してきた「約束の血」シリーズの世界観を引き継ぎながらも、リアルタイムで世界が抱える問題、特に中東の民族紛争に真正面から切り込んだ力作として位置付けられている。

翻訳は藤井慎太郎が手掛けており、舞台上には壮大な歴史的視点と登場人物たちの普遍的な人間ドラマが、ムワワドならではの美しい詩的台詞により綴られる構成となっている。

岡本健一の出演

岡本健一は、本作においてエイタンの父親・ダヴィッド役を演じた。ダヴィッドは敬虔なユダヤ教徒の父親として登場し、アラブ人のワヒダとの交際を息子に強く反対する人物である。このキャラクターは一見すると頑なで不寛容な父親のように見えるが、物語が進むにつれて、彼もまた社会や世界が生み出した犠牲者であり、愛する息子を救おうとする親心に駆り立てられていく複雑な人物像として描かれていく。

『みんな鳥になって』中島裕翔・岡本健一

岡本健一は本作について、「この作品を上演するにあたって大切にしたいことは、何なのだろうか。愛するということなのか、信じるということなのか、自分の考えや言葉、行動は正しいのか、色々な思いもしない出来事が起こった時に、どのように対処していくのか、はたして今の自分は、大丈夫なのだろうか。ワジディ・ムワワドが描く、美しくリアルで刺激的な言葉の数々が、全身全霊で演じる俳優陣、そして観劇してくださる方々の心を鷲掴みにして、大切な希望を与えてくれるのだと思います。演出家、上村聡史の創り出す『みんな鳥になって』、劇場にいる皆様と一緒になって、どこまでも自由に羽ばたきたいと願っています」とコメントしている。初日の上演後には、「劇場中が物凄く静かでいて、濃密な無音の中で、姿や声に色や言葉、音や風景に、あらゆる感情が生まれていて、真空の中で心が動き、果てしなく無限な宇宙の中で、言葉を吐き出しているような…初めての体験をしました」と感想を述べた。

ムワワド「約束の血」シリーズにおける岡本健一の出演歴

岡本健一は、本作『みんな鳥になって』を含めて、ムワワドの「約束の血」シリーズの全4部作に出演している。このシリーズへの継続的な参加は、演出家・上村聡史と俳優・岡本健一の強固な信頼関係と創作パートナーシップを示すものであり、演劇界での岡本健一の重要な役割を象徴している。

『炎 アンサンディ』(2014年初演、2017年再演)

シアタートラムで上演。本作は第69回文化庁芸術祭賞演劇部門大賞、第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞(上村聡史)など多数の演劇賞を受賞した。岡本健一は、主人公の母親・ナワルの初恋の相手であり、その後幾つかの役を演じ分けた。特に兵士ニハッドという役では、極度に張り詰めた演技が高く評価された。

『岸 リトラル』(2018年)

シアタートラムで上演。本作で岡本健一は、主人公・ウィルフリードの父親で既に亡くなっているイスマイル役を演じた。死者でありながらも息子に語りかけ、物語を牽引する重要な役柄を担当。

『森 フォレ』(2021年)

世田谷パブリックシアターで上演。本作で岡本健一は、主人公ルーの父親・バティスト役を演じた。娘の成長の秘密を語る重要な場面を担当し、家族の絆と秘められた真実を伝える役割を果たした。

「約束の血」シリーズ

あらすじ

ニューヨークの図書館で、ベルリン出身の遺伝学・統計学を学ぶ青年エイタンは、イスラム史を学ぶアラブ人女性ワヒダに一目惚れして声をかける。二人は瞬く間に恋に落ちるが、敬虔なユダヤ教徒の父ダヴィッドはこの交際を強く反対する。

エイタンは、父親がなぜここまでワヒダを拒絶するのかに疑念を抱き、ワヒダとともに祖母レアの住むイスラエルへと向かう。そこで彼らは自分たちのルーツを探ろうとするが、爆弾テロに巻き込まれてしまう。病院に運ばれたエイタンのもとに、父ダヴィッドと祖父エトガールが駆けつけ、二人は久しぶりに母であり妻であるレアと再会を果たすことになる。物語を通じて、家族が秘めた深い歴史と過去の傷、そして愛と赦しのテーマが浮かび上がる。

キャスト

  • 中島裕翔:ベルリン出身の青年・エイタン役
  • 岡本健一:エイタンの父親・ダヴィッド役
  • 岡本玲:エイタンの恋人・ワヒダ役
  • 那須佐代子:エイタンの母親・ノラ役
  • 松岡依都美:イスラエルの兵士・エデン役(岡山・福岡公演では渡邊真砂珠)
  • 伊達暁:16世紀の外交官・ワザーン役
  • 相島一之:エイタンの祖父・エトガール役
  • 麻実れい:エイタンの祖母・レア役

スタッフ

  • 作:ワジディ・ムワワド
  • 翻訳:藤井慎太郎
  • 演出:上村聡史
  • 美術:長田佳代子
  • 照明:佐藤啓
  • 音楽:国広和毅
  • 音響:加藤温
  • 衣裳:半田悦子
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