『新・極道の妻たち 覚悟しいや』(しんごくどうのおんなたち かくごしいや)は、成田昭次が常石力男役で出演した東映製作の日本映画。1993年1月30日公開。家田荘子の原作による「極道の妻たち」シリーズの第6作目であり、岩下志麻主演としては4作目にあたる。監督は山下耕作、脚本は高田宏治が務めた。
バブル崩壊と暴力団対策法(暴対法)施行後の激動するヤクザ社会を舞台に、追い詰められた極道の妻たちの愛と戦いを描いた作品である。 成田昭次演じる常石力男のような若手構成員の存在は、伝統的な任侠精神と現代の暴力団社会とのギャップを象徴する役割を果たしている。
成田昭次にとって本作は、俳優としての重要な作品の一つであり、後の音楽活動への転向前の貴重な映画出演作としても注目されている。

概要
本作は1989年と1992年の愛知県、大阪府、そして香港を舞台に展開する。バブル経済崩壊後の社会変動と、1992年5月に施行された暴力団対策法という時代背景の中で、ヤクザ組織が住民の立退き運動に揺れる様子が描かれている。
千之崎組組長の妻・野木安積は、夫に代わって殺人を犯し服役する。出所後、香港で殺し屋・花杜昌治と運命的な出会いを果たすが、彼こそが安積の夫・万乃助を殺害した張本人であった。復讐を誓った安積は、その裏で義妹・千尋が暗躍していたことを知り、極妻同士の凄絶な戦いへと突き進んでいく。
撮影は香港ロケを敢行し、シリーズの中でも国際的なスケール感を持つ作品となった。
▲『新極道の妻たち 覚悟しいや』(1993)予告編 – YouTube
ストーリー
千之崎組組長の妻・野木安積は、大阪の淡野組の罠にはまった夫・万乃助に代わって殺人を犯し、3年間の刑に服することになった。
出所後、万乃助がすっかり淡野組の言いなりになっていることに愛想をつかした安積は、新しい道を求めて香港へ旅立つ。そこで謎の男・花杜昌治と出会い、二人は激しく求め合う。しかし花杜は凄腕の殺し屋であり、安積と別れた後、彼が依頼を受けて殺したのは他でもない万乃助であった。
復讐を誓った安積は逆に花杜を雇い、万乃助殺害を依頼したのが淡野組の雁田和光であり、さらに影で手を引いていたのが安積の義妹で、万乃助の弟・高明の元妻である千尋であることを突き止める。
安積は千之崎一家を継ぎ、花杜とともに淡野組組長・笹野の襲名披露パーティーに乗り込む。そして死闘の末、雁田と千尋を倒すのであった。
成田昭次の役割と出演背景
常石力男という役柄
本作において成田昭次が演じた常石力男(つねいし りきお)は、千之崎組の若い構成員である。
力男は任侠精神を持つ組長・万乃助に強く憧れており、立退き運動の最中に住民の前に現れ、万乃助を勇気づける言葉を叫び、警察に取り押さえられるという行動に出る。この行為が万乃助に気に入られ、1992年頃から少しだけ出世し、2人ほどの舎弟ができるようになった。
普段は威勢が良く気性が荒い性格だが、一般人には基本的に穏やかに接している。後日、万乃助の自宅から出てきた不審な男を見つけて一悶着起こすなど、組長への忠義を体現する若いヤクザとして描かれている。

出演までの経緯
1992年7月、成田が男闘呼組のツアー中に本作への出演オファーがあった。成田は台本を何度も何度も読み、常石力男の生き方に惚れ込んだという。「こんな男になりたいと思うと同時に、この役を他の誰にも渡したくないと思って、出演を決めた」と後に語っている。
共演者には組長役の梅宮辰夫、主役の岩下志麻、草刈正雄、かたせ梨乃と映画界の大先輩が揃い、成田は挨拶の際に「自分が芸能界にいることをしみじみ思った」と振り返る。男闘呼組の活動と自身の音楽活動しかやっていなかったため、芸能人であることを改めて認識した瞬間だったという。
映画では新人として扱われ、しょっちゅう怒られることもあったが、成田は「これがまた気持ちいい」と前向きに受け止めていた。日本刀や拳銃の見せ方、立ち回りなど、学ぶことが多く、「みんなでひとつの映画を作り上げてゆく感じが好き」と語り、目の覚めるような経験となった。


役作りと撮影現場
極道役を演じるにあたり、成田は「頭が切れるくらいテンション上げて演った」と振り返っている。外見については、ゴキブリのようなオールバックにしたのは「見る人に役柄が伝わりやすいように」という意図があった。成田は「サラサラのヘアだって、気持ちの持っていき方で極道はやれると思った」と語り、外見的な記号だけでなく内面から役を作り上げようとする姿勢を示していた。
東映京都撮影所で撮影が行われ、成田は京都のベテラン・スタッフについて「みんないい人。キビシイときもあるけど、みんなで作品を作ってんだから当たり前」と評価している。周囲が大物俳優ばかりの中での撮影について、成田は「オレの存在は『昨日まで新聞配達やってた少年が、イキナリ東映に入った』って感じもした」とユーモアを交えて表現していた。
4年ぶりの映画復帰
本作は、成田にとってデビュー作「ロックよ、静かに流れよ」(1988年)以来、4年ぶりの映画出演となった。

4年間映画から離れていた理由について、成田は「はっきり言って、演じるってことに照れがあった。以前は役に入り込めないで、我にかえりっぱなし。恥ずかしいなあと思いながらやっていたから、俺には向かないと決め込んで、離れて、自分の殻に閉じ籠もっていたのかもしれない」と率直に語っている。
しかし音楽を追求し続けた期間を否定はしておらず、「表現力がついたと思うし、蓄えられたことがたくさんある。でもよく考えると、表現するってことは、手段の違いはあるけど、音楽も芝居も同じなんだ」と気づきに至ったことが、再び演技に挑む契機となった。
撮影終了後、成田は「演技してる時って、考えちゃダメなんだ。どう動こうか考えたら、なりきれてないってことなんだ」と自身に言い聞かせるように語り、常石から成田に戻って頭を抱える場面もあったという。このように悩みながら、自分と戦いながら映画に取り組んでいた。
24歳の決意
映画撮影を経験した成田は、同時にプロ意識についても語っている。「もう24才だし、人に迷惑かけないでやってこうと。いままでロックやってるからハチャメチャやってもいいみたいな考え方してたけど、そりゃ違う。まずは時間厳守。当たり前のことだけど、それができてなかった。サラリーマンだったら1分遅刻しても大変なのに、甘えてた。これからは、細かいことでもキチンとやっていこうと思っている」。
1993年、成田は「役者で始まった」と語り、本作に続いてドラマ「お茶の間」に主演するなど俳優業に注力した。音楽活動への情熱も失っておらず、雑誌のインタビューでは「ソロアルバムの準備は進んでる。先に男闘呼組のレコーディングして、夏にツアー出て、秋にはオレのソロを出す予定」と計画を明かしていた1。ソロ活動に向けては「一緒に演奏するギタリスト、ハングリーで噛み付くようなギター弾く人を探そうと思ってる」と語り、「ああ、ライブやりたくなってきた!」と意欲を見せていた。
音楽や映画、そして様々な出会いが成田を変えていった。1993年、本作公開と同時に新たなステージへ進む成田の姿勢が様々なメディアで紹介された。
評価
映画評論家によるレビューでは、成田昭次の演技について「あどけない顔と芝居がフレッシュで、第3弾に出演していたショーケンぽさを感じる」という評価が寄せられている。また、「あのまま芸能活動を続けていれば、ショーケンのような存在感を放っていたかもしれない」という期待の声も上がった。
キャスト
- 野木安積 – 岩下志麻
千之崎組組長の妻。夫に代わって殺人を犯し服役した極道の妻。 - 花杜昌治 – 北大路欣也
香港マフィアに雇われた凄腕の殺し屋。 - 野木千尋 – かたせ梨乃
安積の義妹。元は万乃助の愛人で、後に弟・高明の妻となったが離婚。 - 野木万乃助 – 梅宮辰夫
千之崎組組長。任侠精神にこだわる昔ながらの極道。 - 野木高明 – 草刈正雄
万乃助の弟。千尋の元夫。 - 常石力男 – 成田昭次
千之崎組の若い構成員。万乃助に憧れている。 - 雁田和光 – 中尾彬
淡野組の幹部。 - 笹部勝志 – 神山繁
淡野組組長。 - 加代子 – 加賀まりこ
桑原組組長の妻で、安積の姉貴分。 - 佐藤慶
- 西田健 – 宇野刑事役
- 浜田晃 – 春日井一馬役
- 成瀬正孝
- 山村紅葉
スタッフ
- 監督 – 山下耕作
- 脚本 – 高田宏治
- 原作 – 家田荘子(文藝春秋刊)
- 撮影 – 木村大作
- 音楽 – 菊地ひみこ
- 主題歌 – 寺田恵子「Dream Again」
- 製作会社 – 東映京都撮影所
- 配給 – 東映
公開と反響
本作は1993年1月30日に公開された。封切り初日には大阪梅田東映の初日オールナイト興行が開催され、岩下志麻、かたせ梨乃、成田昭次らが舞台挨拶に参加した。このイベントでは、岩下がラストシーンで使ったセリフ「あんたら覚悟しいや」を一般公募した参加者に舞台上できめてもらう「あんたら覚悟しいやコンテスト」が開催された。
キャッチコピーは「あんたら、覚悟しいや。日本中を火だるまに!」であり、岩下志麻が殺人、服役、炎の恋を経て凄絶な義妹との極妻決着を描く内容が謳われた。
外部リンク
脚注
- 掲載時点では、同年6月30日に男闘呼組が活動休止となること、夏のツアーが中止となることは知られておらず、結果としてソロアルバム「WUDDAYACALLIT」の発表は1994年9月21日となった。 ↩︎
