「夜は昼の母」

『夜は昼の母』(よるはひるのはは、スウェーデン語原題:Natten är dagens mor)は、スウェーデンの劇作家ラーシュ・ノレーンが1982年に発表した戯曲。ノレーンを世界的に知らしめた代表作で、北欧の家族劇として高く評価されている。日本では2024年に風姿花伝プロデュースによる本邦初演が実現し、舞台俳優の岡本健一が16歳の末弟ダヴィド役を演じた。

スウェーデンを代表する劇作家ラーシュ・ノレーンが1982年に執筆した『夜は昼の母』は、父・母・息子2人から成る家族の危機を一日一夜を通じて描く会話劇である。ノレーンの自伝的要素が強く反映された作品とされており、アルコール依存症、経済的困窮、性的自己認識、家族の愛憎といった深刻なテーマが、ブラックユーモアを交えた台詞で織り込まれている。

1982年にスウェーデンのマルメシティテアター(Malmö Stadsteater)で初演された本作は、その後ストックホルムのドラマテン(王立ドラマ劇場)やヨーテボリ市立劇場など、スウェーデンの主要劇場で立て続けに上演され、瞬く間に現代の古典として認識されるようになった。ノレーン自身がアウグスト・ストリンドベリ以降のスウェーデン演劇を代表する劇作家として国際的に認識されるようになった契機となった作品である。

本作は2021年に亡くなったノレーンへの哀悼の意を込めて、日本では2024年2月、東京・シアター風姿花伝によるプロデュース公演第10弾として上演された。上演台本は、翻訳家ヘレンハルメ美穂による日本語訳が用いられた。

ダヴィド役:岡本健一

岡本健一の出演

岡本健一は、本作で末弟ダヴィド役を演じた。岡本は当時54歳であった。

岡本がノレーン作品に出演するのは二度目であり、2019年の風姿花伝プロデュース第6弾『終夜』でも岡本はノレーンの作品に出演している。演出家の上村聡史は岡本の演技能力を高く評価しており、その後も複数の作品で岡本の出演を起用している。

舞台上で54歳の岡本は16歳の少年ダヴィドを演じた。外見的には年齢相応であるにもかかわらず、メイクや表情、身体の動き、台詞の発語を通じて、演劇的な表現によってダヴィドという思春期の男性を具現化した。冒頭では母の衣服を身につけて口紅を塗るシーンから登場し、性的自己認識の葛藤、家族との距離感、自分の人生への戸惑いを複層的に演じた。

出演決定の際、岡本健一は以下のようなコメントを発表した:

今回Vol.10となる記念すべき作品『夜は昼の母』は、私が以前出演させて頂いた『終夜』と同じ作家、ラーシュ・ノレーンの代表作だそうです。彼の描く登場人物の言葉や描写は場面ごとに、日常であって日常を超越した重要な時間を創り出していきます。なぜ今この作品を上演するのか、なぜこの登場人物は、この言葉を吐くのか。

さらに岡本は、ノレーンを「弱者の味方」として評価し、シアター風姿花伝の公演について「出来るだけ興味のある方々だけで、限られた特別な時間を体感して頂きたい」とのメッセージを送っている。

あらすじ

1950年代半ばのスウェーデン。小さなホテルを経営する家族のもとに、16歳の末弟ダヴィドの誕生日を迎える一日が訪れる。しかし家族には深刻な危機が忍び寄っていた。

ホテルの経営は危機的な状況にあり、父マッティンは経営を何とか立て直そうと奔走しているが、彼はアルコール依存症であり、以前の治療施設での約束を破り、再び酒を飲み始めていた。母エーリンは原因不明の咳に苦しみ、医者にもかかっていない。兄イェオリは兵役を経験し、家に閉じこもる弟に苛立ちを隠せない。一方、ダヴィドは16歳になった今も自分が何者であるのか定まらず、母の衣服を身に着けたり、不安定な行動を繰り返している。

この日、家族が奏でるのは愛と憎悪、期待と絶望の四重奏である。一夜を通じて、それぞれが抱える秘密と傷が表出し、家族という関係性の根底が揺さぶられていく。

キャスト

  • ダヴィド役:岡本健一
    末弟。16歳。自分の性的アイデンティティや人生の方向性について悩み、家に篭もる傾向がある。
  • エーリン役:那須佐代子
    母。咳が絶えず、健康状態が思わしくない。家族を支えようとするが、次第に精力を失いつつある。
  • イェオリ役:竪山隼太
    兄。兵役を経験した青年。家に閉じこもる弟や自分を理解しない父に苛立ちを感じている。
  • マッティン役:山崎一
    父。ホテルの経営者で料理人。アルコール依存症であり、治療施設に入所していた過去を持つ。経営危機に直面し、家族の期待と自分の弱さの間で葛藤している。

スタッフ

  • 作:ラーシュ・ノレーン
  • 翻訳:ヘレンハルメ美穂
  • 演出:上村聡史

日程

2月2日~2月29日 シアター風姿花伝

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