『森 フォレ』(もり フォレ)は、岡本健一が出演した舞台作品。レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの「約束の血」4部作の第3弾。翻訳は藤井慎太郎、演出は上村聡史が手掛けた。2021年7月に東京・世田谷パブリックシアターで初演され、その後名古屋、兵庫での公演が行われた。


『森 フォレ』は、ワジディ・ムワワドの「約束の血」4部作を構成する作品群の第3弾である。同シリーズは『炎 アンサンディ』(2014年初演、2017年再演)と『岸 リトラル』(2017年リーディング公演、2018年本公演)に続く、大規模な上演となった。舞台作品としては約3時間40分(休憩2回を含む)の大作であり、ムワワドの著作の中でも「集大成」と評される。
翻訳・演出を務めた上村聡史は、『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』の両作で数多くの演劇賞を受賞しており、本作でも同じスタッフが集結した。舞台美術、照明、音楽など全ての主要スタッフが前2作から継続して携わっている。
演じられる時代は8世代、140年間に及ぶ壮大なスケールを持つ。1989年のベルリンの壁崩壊、第二次世界大戦、第一次世界大戦、普仏戦争から産業革命後のヨーロッパへと物語は遡る。
ワジディ・ムワワドはレバノン出身の劇作家で、自らの内戦体験と亡命経験を背景に作品を執筆している。ムワワドの戯曲の大きな特徴として、宗教・戦争・歴史といった、日本人にとっては「一筋縄ではいかない題材」が挙げられる。『森 フォレ』では、ベルリンの壁崩壊から普仏戦争まで遡る140年の時間軸の中で、「世界に押し潰された声」と「自分自身で押し潰してしまった声」が丹念に描かれている。
演出の上村聡史は、「役の心情のみならず、社会・政治背景まで正確に分析して表現する緻密な演出力」を用いて、同シリーズの作品群を立ち上げてきた。本作は「『楽しい芝居』というシンプルな言葉では表せない作品」と位置づけられ、「『森』の中にうごめく声たちが、皆さんの心を解放してくれる」ことを目指した。
あらすじ
1989年11月ベルリンの壁崩壊直後、モントリオールに住むエメ(栗田桃子)にてんかんの発作が起き、知るはずもない第一次世界大戦中のフランス兵・リュシアン(亀田佳明)の名前を口にする。その原因として考えられるのは、妊娠中のエメの脳に生じた悪性腫瘍のためであった。エメが健康な状態で生き延びるには堕胎を選択することだったが、エメは出産を決断し、娘ルーを生む。その後エメは意識不明の状態に陥り、15年後に死ぬことになる。
20歳に成長した娘ルー(瀧本美織)は、偶然にもフランスの古生物学者ダグラス(成河)の来訪により、母の死の真相を、父バチスト(岡本健一)から聴くことになる。ダグラスの説得により、カナダ北部セント・ローレンヌ川の河口に住む祖母リュス(麻実れい)に会いに行くことを決める。しかしそこで、リュスの母が第二次世界大戦をレジスタンスとして生き、その名がリュディヴィーヌ(松岡依都美)であることを知る。
ルーとダグラスは自らのルーツを探るため、フランスへと旅立つ。その過程で、普仏戦争後の1871年に遡るストラスブールのケレール一族の歴史が明かされていく。当主アレクサンドル(大鷹明良)の息子アルベール(岡本健一)、その妻オデット(栗田桃子)、そして世代を超えて繰り返される悲劇と呪いの歴史が、物語全体を貫く。
岡本健一の出演


岡本健一は、本作で複数の役を演じた。主要な役割としては、現代パートの主人公ルーの父バチスト、そして過去のパートで19世紀後半のストラスブールに生きたアルベール・ケレールを演じた。
「約束の血」4部作における岡本の継続的な出演は、本シリーズにおける重要な特徴である。岡本は『炎 アンサンディ』(初演・再演)、『岸 リトラル』(リーディング公演・本公演)、『森 フォレ』に加えて、2025年に上演された『みんな鳥になって』と、シリーズを構成する主要作品すべてに出演している。『岸 リトラル』では、その高い演技力が評価され、第26回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞した。
本作では、バチスト役において、ルーに向き合う父親としての複雑な心情を表現した。アルベール役では、近親相姦や異常な「エデンの園」構想など、道徳的に深刻な主題に向き合う19世紀の人物を演じた。11人の出演者が40人以上の登場人物を演じ分ける中で、岡本はこれらの複数役を通じて作品全体の時間的な繋がりを表現する役割を担った。
初日コメント
初日の公演後、岡本は複数のポストトークに登壇し、役作りや作品への想いについて語った。
壮絶な状況の中、懸命に生きる登場人物たちが織り成す家族・友人たちとの絆の強さに、自分自身がもっと懸命に生きなければいけないなと感じさせられました。ワジディ・ムワワドが紡ぎだす独自の世界観と、美しい言葉の中には、これからの世界を築いていく若い世代への痛烈なメッセージが込められています。言葉では伝えきれないこの世界観を、ぜひ皆様にも体感していただきたいです。
稽古場の様子
本作の稽古期間中、岡本健一は出演者・スタッフへのインタビューを主導し、撮影したインタビュー映像が世田谷パブリックシアターの公式YouTubeチャンネルで順次公開された。このインタビュー企画について、岡本は「稽古場の雰囲気や、公演への意気込みなど、カンパニーの一員として引き出したエピソード」を共有する意図があったと述べた。
上村聡史による岡本健一の評価
演出の上村聡史は、岡本健一の演技の本質について、作品の世界観との深い結合を指摘した。
ムワワドの作品に岡本さんが関わってくれて、なにがその劇世界とフィットするかというと、ムワワドは愛を信じている部分があると同時にその反面、相当な怒りを持って描いているんです。その怒りと、健一さんの中に内在している怒りといいますか、表現者として世界にどう立ち向かっていくかというところが、とてもいい地点でクロスオーバーしている。だからこそ毎回異なった役柄でも、高い温度を感じる印象があるのかと分析しています。
上村は、岡本が複数の役を演じ分ける中でも、シリーズの一貫性を保ち続ける重要な役割を果たしていることを述べた。
共演者との関係性
成河との長年の共演経験について、岡本は複数の公開対談で語った。2015年の『スポケーンの左手』、そして『森 フォレ』での共演を経た後、二人芝居での共演機会を重ねている。成河は岡本について、「ふたりでガッツリと稽古して作る、みたいなシーンは二人芝居がすごく好きだから」という姿勢を示しつつも、「健一さんの、結構面倒臭いところも知ってる」と親密な関係性を交えたコメントを残している。
キャスト&スタッフ
- 成河(ダグラス役)
 - 瀧本美織(ルー役)
 - 岡本健一(バチスト役、アルベール役ほか)
 - 麻実れい(リュス役、ほか)
 - 栗田桃子(エメ役、オデット役)
 - 前田亜季(サラ・コーエン役)
 - 岡本玲(エレーヌ役)
 - 松岡依都美(リュディヴィーヌ役)
 - 亀田佳明(リュシアン役、エドモン役)
 - 小柳友(エドガール役)
 - 大鷹明良(アレクサンドル役)
 
前2作『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』から続投する出演者として、栗田桃子、小柳友、亀田佳明(『岸 リトラル』から)、麻実れい、岡本健一が参加した。新たに加わった出演者として、成河、瀧本美織、岡本玲、松岡依都美、前田亜季、大鷹明良らが参加した。
- 作:ワジディ・ムワワド
 - 翻訳:藤井慎太郎
 - 演出:上村聡史
 - 美術:長田佳代子
 - 照明:沢田祐二
 - 音楽:国広和毅
 - 音響:加藤温
 - 衣裳:半田悦子
 - ヘアメイク:川端富生
 - 振付:新海絵理子
 - 舞台監督:大垣敏朗
 
上演日程
- 2021年7月6日~24日 東京・世田谷パブリックシアター
 - 2021年7月28日 愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
 - 2021年8月7日~8日 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
 
東京公演では、7月16日(金)と22日(木)の公演終了後にポストトークが開催された。16日には上村聡史、成河、岡本健一、世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎が登壇し、22日には上村聡史、成河、瀧本美織、岡本健一、麻実れいが登壇した。
「約束の血」シリーズ
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 舞台
	「炎 アンサンディ」
作:ワジディ・ムワワド 翻訳:藤井慎太郎 演出:上村聡史 共演:麻美れい・栗田桃… - 
	
		
 舞台


「炎アンサンディ」2017(再演)
作:ワジディ・ムワワド 翻訳:藤井慎太郎 演出:上村聡史 共演:麻美れい・栗田桃… - 
	
		
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戯曲リーディング「岸リトラルより」
作:ワジディ・ムワワド 翻訳:藤井慎太郎 演出:上村聡史 音楽・演奏:国広和毅 10… - 
	
		
 舞台


「岸リトラル」
作:ワジディ・ムワワド 翻訳:藤井慎太郎 演出:上村聡史 共演:中嶋朋子・亀田佳… - 
	
		
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「森フォレ」
『森 フォレ』(もり フォレ)は、岡本健一が出演した舞台作品。レバノン出身の劇… - 
	
		
 舞台


『みんな鳥になって』
『みんな鳥になって』(みんなとりになって)は、岡本健一が出演した舞台作品。レ… 








