朗読劇『ラヴ・レターズ』2022年2月7日公演(ろうどくげき らヴ・れたーず 2022ねん2がつ7にちこうえん)は、岡本健一が出演した舞台作品。A.R.ガーニー作、青井陽治訳、藤田俊太郎演出による朗読劇『ラヴ・レターズ』の2022年31周年記念特別公演における2月7日(月)の上演回を指す。同劇場の創立30周年を記念した公演として、PARCO劇場(東京・渋谷)にて2022年2月に上演された。岡本健一は奈良岡朋子との共演で、2011年以来11年ぶりの出演となった。本公演は、奈良岡朋子にとって最後の舞台出演作品となった。

『ラヴ・レターズ』は、1989年にニューヨークで初演されたアメリカの劇作家A.R.ガーニーによる朗読劇の戯曲である。幼なじみの男女が1930年代から1980年代にかけ50年にわたって交わす往復書簡により綴られる恋物語を描く作品で、1990年にピューリッツァー賞戯曲部門の最終候補作品に選ばれた。舞台にはテーブルと二脚の椅子のみ。並んで座った二人の男女が、手にした台本を読み上げるだけのシンプルな舞台構成でありながら、互いを意識しつつも別々の道へ進んだ2人がやがて再会し激しく惹かれ合うさまを描く。
日本では、1990年にプロデューサーの内藤美奈子と翻訳家・演出家の青井陽治が上演権を獲得し、青井の訳・演出により初演。同年8月19日にPARCO劇場で役所広司と大竹しのぶの出演により初演されて以来、さまざまな年齢・個性のカップルが四半世紀以上にわたって演じ続け、朗読劇の金字塔を打ち立てた。青井は2017年9月に死去し、その後は藤田俊太郎が青井の遺志を継ぎ演出を担当している。
2022年31周年記念特別公演
2022年31周年を迎える『ラヴ・レターズ』は、2月3日(木)と2月7日(月)の2日間、PARCO劇場で特別公演として上演された。3日公演は若手俳優の溝口琢矢と元宝塚歌劇団花組トップ娘役の仙名彩世が担当し、7日公演は岡本健一と奈良岡朋子が出演した。演出の藤田俊太郎は、公演に関するコメントで「『同年代の2人が出演する』という慣習となっていた上演の在り方を塗り替え、レジェンドとなったお二人が再び『ラヴ・レターズ』に挑戦します」と述べた。
出演経緯と2011年初出演
岡本健一の『ラヴ・レターズ』への初出演は2011年2月であった。当時80歳を過ぎていた奈良岡朋子との共演は、岡本にとって長年の念願だったという。

初めての共演となる本読み稽古に臨んだ岡本は、奈良岡の演技に直面して自身の技術的な不足を痛感することになった。岡本は後年のインタビューで、その時の状況を以下のように回想している:
まず一緒にホン読みやった時に、自分のできなさ加減をまざまざと思い知らされたんですね。最初、奈良岡さんがやると7歳の少女にしか聞こえない。でも俺は子供の声は出せない。物語が進むと、奈良岡さんの役の姿がどんどん役柄の年齢とともに明確になってくるけど、自分のは何か届かない。
朗読劇の特性上、物語の進行に伴い登場人物は幼少から老年へと年を重ねていく。奈良岡は声の表現により、その年齢の推移を見事に表現していたのに対し、岡本はその表現ができていなかったのである。
本読み稽古で奈良岡の不満は徐々に高まっていった。岡本は続けて述べている:
すると奈良岡さんがだんだん不機嫌になってきて、しまいにはいらいらしだしてね。俺の滑舌は悪いし、ブレスは悪いし、声も届かないし、発声もよくないし、全部ダメじゃない、みたいになって。
この厳しい指摘に対し、岡本は奈良岡に対して「本物の舞台役者になりたいから、もう一回稽古つけてください」と懇願した。奈良岡はこれに応じて、岡本のために追加の稽古時間を設けてくれた。短時間の指導を受けた岡本は、その後自主稽古を重ね、本番に臨むことになった。
本番当日、岡本は奈良岡との共演の中で深い感情的な経験をした。作品のクライマックスである最後の手紙の場面で、岡本は極度の感情に襲われた。岡本は「結構いい感じで進んで、最後の手紙の場面になったら悲しすぎて嗚咽状態になって、1分か2分、台詞が言えなくなった。その時はもう、お客さんもみんな泣いてましたね」と当時の状況を述べている。
しかし本番終了後、奈良岡からの評価は岡本の期待とは異なるものだった。奈良岡は岡本に対し、以下のように厳しく指摘したのである:
あのね、練習不足だからああなるのよ。台詞が言えなくなるのは役をちゃんとやってないからよ。泣きゃいいってもんじゃないわよ
この指摘は、岡本の舞台人としての成長において極めて重要な転機となった。2011年の40歳の年の差がある岡本と奈良岡のペアは、その後「伝説」として演劇関係者に語られることになった。この初共演は、奈良岡が岡本に対して行った根本的な舞台技術と役作りの指導を通じ、岡本に舞台役者としての本質を教えた経験として位置づけられる。
2022年11年ぶりの再演
2011年から約11年の歳月を経た2022年、奈良岡朋子から岡本健一に対して、再度『ラヴ・レターズ』に出演することの提案が寄せられた。奈良岡は、岡本との再共演について自身のコメントで「岡本さんと会うと芝居の話が尽きません。どうしても舞台から離れられない二人のようです。11年ぶりの『ラヴ・レターズ』でどんな世界が描けるのか、2月7日が今から楽しみです」と期待を述べていた。
これに応じた岡本は、2022年の公演に向けて以下のようなコメントを発表している:
10年を経た私達はどんな二人になるのか、この哀しみに満ちた愛の物語は、何処へ行くのだろうかという未知の世界に、気持ちが上昇して行きます。みなさま、是非とも劇場で二人の肉声に耳を傾けて下さい
また、奈良岡からの誘いに応じた経緯について、岡本は「驚きと喜びが溢れ、是非ともお願いします!と今に至ります。心から感謝します」と述べた。岡本は舞台に上がる前に「奈良岡さんの顔を思い浮かべ」て、「今までの成長を見せたい」という想いで本番に臨んだという。奈良岡との最初の共演から11年の間に積み重ねた舞台経験と技術を、改めて表現する機会としての位置づけがなされていた。

奈良岡朋子と最後の舞台
出演した奈良岡朋子は、劇団民藝の代表を務めた新劇界の代表的な女優である。1929年12月1日生まれで、2022年公演当時92歳だった。1950年の劇団民藝創立に参加して以来、7,000ステージ以上の舞台に出演した。1992年に紫綬褒章、2000年に勲四等旭日小綬章を受章している。
『ラヴ・レターズ』への出演歴は長く、1994年に愛川欽也との共演で初出演して以来、複数回にわたり出演を重ねていた。奈良岡は2022年2月7日の岡本健一との共演が自身最後の舞台出演となることを明言していた。実際に翌年の2023年3月23日、奈良岡朋子は肺炎のため93歳で逝去し、本公演は奈良岡の最後の舞台作品となった。

公演情報
- 上演日時:2022年2月7日(月)15時開演
 - 会場:PARCO劇場(東京・渋谷PARCO 8F)
 - 出演:岡本健一、奈良岡朋子
 - 作:A.R.ガーニー
 - 訳:青井陽治
 - 演出:藤田俊太郎
 - 料金:7,500円(全席指定・税込)
 - 上演時間:約2時間(休憩20分含む)
 - 公演形式:31周年記念特別公演
 

