劇団民藝公演「グレイクリスマス」2020

グレイクリスマス』(2020年版)は、劇作家・斎藤憐による日本の舞台作品を、劇団民藝が2020年5月~7月にかけて全国巡演で上演した版である。本作は2018年の東京公演から2年を経て、オリジナル台本をもとにした新たな演出により上演された。演出家・丹野郁弓による新演出版として、2018年版と同じく俳優・岡本健一を客演として迎え、全国各地での巡演公演として展開された。

この版は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一部公演が中止・延期されながらも、主に長野県など限定された地域での上演が実現した。その後、2020年以降も継続して全国での巡演が進められ、民藝初演から30年を経た2025年時点でも定期的に上演され続けている現役作品である。

2020年版は、2018年12月の東京・三越劇場での演出版から、オリジナル台本に立ち戻った新演出版として企画・実現された。演出家・丹野郁弓は、前年の上演を踏まえつつも、さらに根本的な台本解釈に取り組み、作品に対して新たな視座を提供した。

2018年版では東京の単発公演であったのに対して、2020年版は全国巡演ツアーを本格的に展開することが計画されており、より多くの観客層への到達を目指す構成となっていた。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大防止のための社会的制約により、当初予定されていた5月・6月の公演の多くが中止・延期されることになった。

新型コロナウイルスの影響と公演の中止・延期

2020年4月初旬から中旬にかけて、劇団民藝は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための公的機関の方針と社会情勢を鑑み、全国各地の主催者・演劇鑑賞団体との協議を重ねた。その結果、当初5月6日(水・振休)の川崎公演(麻生市民館大ホール)から始まる予定であった複数公演の中止を余儀なくされた。

2020年4月9日の公式発表により、以下の公演が中止決定された:

  • 川崎公演(5月6日、麻生市民館大ホール)
  • 大垣公演(5月8日、大垣市文化会館)
  • 福井公演(5月10日、福井県県民ホール)
  • 京都公演(5月11日、京都府立文化芸術会館)

さらに5月21日には、6月27日予定の兵庫県西宮公演(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)についても中止が決定されることになった。

また、九州演劇鑑賞団体連絡会議が企画していた5月14日(木)~6月25日(木)の九州各地での全39ステージについても、上演を断念することが決定された。

実施された公演

  • 7月 8日 上田・サントミューゼ 大ホール
  • 7月 9日 岡谷・下諏訪町総合文化センター
  • 7月10日 伊那・駒ケ根市文化会館
  • 7月11日 大町・大町市文化会館
  • 7月13日-14日 松本・まつもと市民芸術館
  • 7月15日 長野・ホクト文化ホール中ホール

この限定された公演スケジュールにも関わらず、2020年版は事実上の「再演」版として記録され、その後2021年以降も継続的な全国巡演が推進されることになった。

キャスト

2020年版のキャスト構成は、基本的に2018年版から踏襲されているが、一部の役には異なる俳優が配置された。

基本となるキャスト(複数年継続出演):

  • 五條伯爵:千葉茂則
  • 伯爵夫人・華子:中地美佐子
  • ジョージ・イトウ(日系二世の軍人):塩田泰久
  • 権堂(闇屋):岡本健一(客演)
  • 伯爵令嬢・雅子:神保有輝美

その他の主要役(2020年版で確認される配置):

  • 伯爵嫡男・紘一:横山陽介
  • 伯爵の弟・紀孝:天津民生
  • 紀孝の妻・慶子:吉田陽子

中地美佐子による華子役は、2018年版から継続して演じられた重要な役である。初演時の著名女優・奈良岡朋子から平和への願いと憲法への思いを「受け継いだ」役として、劇評の中でも特に注目された。

岡本健一は、2020年版においても権堂という複雑なキャラクターを客演として担当し、その演技の力強さと物語における「狂言回し的役割」が継続して高く評価されている。

戦後75年

2020年版の企画発表時の劇団民藝の広報では、「戦後75年、真のデモクラシーとは何か」というテーマが前面に出された。これは2020年がちょうど敗戦から75年目に当たること、さらには当時の日本の平和憲法や民主主義の理想をめぐる社会的議論が活発化していた時代背景を反映するものであった。

演出家・丹野郁弓は、この新演出版について以下のようにコメントしている

アルテリッカしんゆり初登場となるジャニーズ事務所の岡本健一を客演に迎え、『上海バンスキング』で知られる劇作家・斎藤憐の代表作を新たな陣容でお届けします。全国各地で353回の上演を重ねてきましたが、この度はオリジナル台本、新演出での上演となります。戦後75年、平和の願いをこめて渾身の舞台がいま蘇ります。

このコメントから明らかなように、2020年版は単なる再演ではなく、新しい解釈に基づいた舞台化として位置づけられており、演出家は全国各地での過去353回の上演という実績を踏まえながらも、あらためてオリジナル台本に立ち戻り、新しい演出ビジョンを投入することを強調していた。

演劇鑑賞団体による全国巡演

2020年版以降の上演形式の重要な特徴として、演劇鑑賞団体を通じた全国巡演という枠組みが確立されたことが挙げられる。長野県演劇鑑賞団体連絡会議や九州演劇鑑賞団体連絡会議、各地の市民劇場といった組織を通じて、より広範な地域での上演が実現されている。

これにより、東京の演劇施設に限定されることなく、全国の地方都市における観客にまでこの作品が到達する仕組みが形成された。

2018年版の演出が「東京版」として一定の完成度を目指す形で設計されたのに対して、2020年版以降は、より広い観客層への到達と、地方都市での舞台上演を念頭に置いた展開を目指すものとなった。

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