朗読劇『ラヴ・レターズ』2011年2月公演(ろうどくげき らヴ・れたーず 2011ねん2がつこうえん)は、岡本健一が出演した舞台作品。A.R.ガーニー作、青井陽治訳・演出による朗読劇『ラヴ・レターズ』の2010年度20周年記念特別公演である「LOVE LETTERS 2010 20th Anniversary Valentine Special」として、東京・PARCO劇場にて2011年2月に上演された。岡本健一は奈良岡朋子との共演で、年の差40歳以上のカップルの組み合わせが話題となった。本公演は、岡本の舞台役者としてのターニングポイントとなり、奈良岡朋子との師弟関係を形成する契機となった。

『ラヴ・レターズ』は、1989年にニューヨークで初演されたアメリカの劇作家A.R.ガーニーによる朗読劇の戯曲である。幼なじみの男女が1930年代から1980年代にかけ約半世紀にわたって交わす手紙による恋物語を描く。別々の道へ進んだ二人が再会し激しく惹かれ合うさまが表現される。舞台にはテーブルと二脚の椅子のみ。並んで座った二人の男女が、手にした台本を読み上げるだけのシンプルな舞台構成でありながら、深い感情世界を表現する。
日本では、1990年にプロデューサーの内藤美奈子と翻訳家・演出家の青井陽治が上演権を獲得し、青井の訳・演出により初演。同年8月19日にPARCO劇場で役所広司と大竹しのぶの出演により初演されて以来、さまざまな年齢・個性のカップルが四半世紀以上にわたって演じ続けられてきた。
2010年度20周年記念特別公演
『ラヴ・レターズ』の日本初演が1990年8月19日であったため、2010年は同作品の20周年となる重要な節目の年であった。この記念の年に、A.R.ガーニーの指定により稽古は1回のみという作品の特性を活かし、複数組のキャスティングによる記念特別公演が企画された。
20周年記念公演は複数の段階に分けて上演されることが決定された。最初に6月に複数組のキャストによる初期の記念公演が予定されていたが、最終的には「LOVE LETTERS 2010 20th Anniversary Valentine Special」と題された2011年2月の公演へと引き継がれた。バレンタイン・スペシャルとして企画された2月の公演では、複数組のカップルが異なる日程で出演することが予定された。
2月7日(月)15時の公演には、岡本健一と奈良岡朋子が配置された。
岡本健一の出演
岡本健一の『ラヴ・レターズ』出演は、彼自身にとって長年の念願を実現するものだった。当時、岡本は奈良岡朋子との共演を望んでいた。2011年2月の公演において、その念願が叶うことになったのである。
岡本は、本読み稽古に初めて臨む前の時点で、奈良岡の舞台役者としての力量について高い敬意を抱いていた。しかし実際の本読みに臨むことによって、岡本は自身の技術的な限界と舞台役者としての基本的な欠陥を痛感することになった。
『ラヴ・レターズ』の稽古は、A.R.ガーニーの指定により本読み1回のみである。この1回の本読みが、作品を成立させるための唯一の準備過程となる。
岡本は後年のインタビューにおいて、その本読み稽古での状況を詳細に述べている。まず、奈良岡が演技を開始した際の衝撃を以下のように述べている:
健一2011年の2月に念願が叶って初めての奈良岡さんと共演。一回しかない本読み稽古の時、私は舞台役者の神髄を知りました。目の前で体感しました。その声、それはそれは見事でした。冒頭から、当時80歳を過ぎた奈良岡さんが幼馴染みの無邪気な女の子にしか聞こえなかったのです。
朗読劇の特性上、登場人物は物語の進行に伴い幼少から老年へと年を重ねていく。奈良岡は声の表現により、その年齢の推移を見事に表現していた。岡本は続けて述べている:



そこから物語が進み、時代が過ぎて行く全ての情景、不思議なことに成長していくメリッサの姿までが、頭の中、心に浮かび上がっていました。
一方、自分自身の演技については、岡本は深刻な不足を認識したのである:



同時に自分の下手くそさと伝わらなさを感じました。
奈良岡からの評価も厳しかった。奈良岡は岡本に対して直截に「あなた何にも出来てないわよ」と指摘したのである。
この厳しい指摘に対し、岡本は自分の技術的な不足を深く理解し、改めて舞台役者としての基本を習得する必要性を感じた。岡本は当時の心境を以下のように述べている:



私は「すみません。ちゃんとした舞台役者になりたいんです! 今までもやってきて、それなりに評価もあったから自分勝手に自信を持っていて、今に至ると思っていたのですが、奈良岡さんと本読みをして、ハッキリと自分は基本が出来ていない、これは駄目だ、舞台役者でもなんでもないことに気付きました。舞台役者になるために必要な事を教えて下さい! お願いします!
岡本は奈良岡に対して、追加の稽古指導を懇願した。幸いにも、奈良岡はこの懇願に応じたのである。
奈良岡から指導を受けた岡本は、その短時間の教えを心に刻み、本番までの1週間の間に集中的な自主稽古を行った。岡本は当時の決意を述べている:



そして『ラヴ・レターズ』の本番では、ちゃんと存在します
この言葉の中には、奈良岡の指導を受けた岡本の、舞台役者としての覚悟と決意が込められていた。奈良岡は短時間で岡本の「基礎を叩き込」んだが、岡本は自主稽古により、その教えを身体に落とし込むべく努力したのである。
本番当日、岡本は奈良岡との共演の中で深い感情的な経験を得た。作品のクライマックスである最後の手紙の場面で、極度の感情に襲われたのである。しかし、ユーザーが提供した婦人公論の詳細なインタビューによれば、本番後に奈良岡からは一段と厳しい指摘を受けることになった。
奈良岡は岡本に対して、感情的な演技表現の危うさを指摘し、「練習不足だからああなるのよ。台詞が言えなくなるのは役をちゃんとやってないからよ。泣きゃいいってもんじゃないわよ」と述べたのである。この教えは、岡本の舞台人としての基礎を形成する極めて重要な指導となったと言える。
奈良岡朋子について
共演相手の奈良岡朋子は、劇団民藝の代表を務めた新劇界を代表する女優である。1929年12月1日生まれで、2011年公演当時80歳を過ぎていた。1950年の劇団民藝創立に参加して以来、舞台役者として数十年にわたる経験を積み重ねていた。
奈良岡は『ラヴ・レターズ』への出演経験も豊富で、1994年に愛川欽也との共演で初出演して以来、複数回にわたり同作品に出演していた。本公演は、奈良岡がこの作品に出演した重要な記念公演の一つであった。
影響
2011年2月の『ラヴ・レターズ』公演は、岡本健一にとって舞台役者としての大きな転機となった。奈良岡朋子からの指導により、岡本は舞台役者としての基本と本質を学ぶ機会を得たのである。


この初共演は「伝説」として演劇関係者に語られることになった。年の差40歳以上のカップルの組み合わせと、その出演を通じた師弟の絆は、演劇業界における美談として認識されるようになったのである。
約11年の年月を経た2022年2月には、岡本と奈良岡は再び『ラヴ・レターズ』の舞台に立つことになる。この2022年の再演は、2011年の初共演を通じて築かれた二人の関係性が、11年の時を経てもなお持続していたことを示すものであった。


公演情報
- 上演日時:2011年2月7日(月)15時開演
 - 会場:PARCO劇場(東京・渋谷)
 - 出演:アンディ(岡本健一)、メリッサ(奈良岡朋子)
 - 作:A.R.ガーニー
 - 訳・演出:青井陽治
 








