春陽堂書店の関容子「私の出逢ったひと」第33回は、岡本健一との交流を観劇、トーク、会食の場から綴る。出発点は2011年5月、紀伊國屋ホールの『恋人』終演後に、震災支援の募金をして握手した経験だった。俳優の素顔を知ることで、関はその後の舞台を身近な人を見守るように観るようになる。交流は歌舞伎座・花篭ホールのトークや品川の教会ライブへ広がり、『みんな鳥になって』の観劇後には友人たちと岡本を囲む会食も実現した。関は、俳優を拍手で迎える光景に勘三郎との思い出を重ね、岡本の会計時の心遣いも記す。『グレイクリスマス』『マクベス』の後にも会食は続き、観客の生の感想を喜ぶ岡本と、それを届ける関の関係が描かれる。
春陽堂書店の関容子「私の出逢ったひと」第33回は、岡本健一の素顔に初めて触れた2011年5月の体験から始まる。朝倉摂に舞台装置と岡本を勧められ、関は紀伊國屋ホールでハロルド・ピンターの『恋人』を観た。夫婦の危うい遊戯と、傾斜した黒い舞台の不穏さを面白く感じた関は、終演後、東日本大震災の支援募金に立つ岡本の列へ並び、1000円を寄付して握手した。
関は『花の脇役』『虹の脇役』で歌舞伎の脇を務める役者たちに取材し、素顔を知ると親身に応援でき、芝居も面白くなると感じていた。岡本との握手後も、『リチャード三世』『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』『海辺のカフカ』を、身近な人を見守るように観るようになったという。
交流は取材後にも広がる。1月4日の取材の続きで、関が歌舞伎座・花篭ホールで月1回行うトークの話をすると、岡本は予定を確認して5月の出演を申し出た。5月初めには品川の教会ホールのライブへ関と編集者を招待。髪を振りながら歌う姿を獅子物になぞらえた関は、トークで歌詞の一部分しか聞き取れなかったという感想を話し、ファンの反応を引き出した。会場は遠方から訪れた人も交えて超満員となり、その後も約半年ごとに2回のトークが行われた。

最初の取材で話題になった、俳優を囲む会食も実現した。関と友人十数人は世田谷パブリックシアターで『みんな鳥になって』を観劇。息子の結婚を拒むユダヤ教徒の父ダビッドを演じる岡本を中心に観たことで、以前のムワワド作品とは違う深い感銘を得たと関は述べる。終演後、近くの中華レストランで一行が岡本を拍手で迎えた光景は、かつてグルベローヴァが店の客に歓迎され、勘三郎が自分にもそんな場があればと羨んだ思い出を呼び起こした。
岡本は翌日の舞台のため先に帰る際、会計係の若い2人へ財布を出して金額を尋ねたという。会食は三越劇場の『グレイクリスマス』、新国立劇場の朗読劇『マクベス』の後にも続いた。観客の生の感想を直後に聞けることを喜ぶ岡本は、以前こうした集まりをしなかった理由を問われ、関と出会っていなかったからだと思うと答えた。舞台と客席をつなぐ交流が、関自身の観劇経験とともに描かれる。

関容子「私の出逢ったひと」岡本健一
春陽堂書店の関容子「私の出逢ったひと」第32・33回は、俳優・岡本健一の舞台上の印象と、取材や観劇を通じて知った素顔を描く前後編。2024年末の『グレイクリスマス』稽古場での初インタビューでは、関の不安を解く親しい語りかけから、羞恥心を乗り越えた俳優観、奈良岡朋子との共演、岡本圭人の育児や母への回想へと話が進む。後編は2011年の『恋人』終演後の募金・握手にさかのぼり、素顔を知ることが観劇の楽しさを変えた経験を綴る。交流は花篭ホールのトークやライブ、観劇後の会食へ広がった。年齢や肩書きを越えて人に向き合う岡本の姿と、舞台と客席をつなぐ関のまなざしを、俳優と観客の交流を含む具体的なエピソードから伝える連載である。



