2023年7月22日のTOKYO FM『KURE 5-56 Presents ROCKON TIMES』は、前田耕陽と寺岡呼人の初めての組み合わせ。バラードで自分の歌う一節を任された時、前田は何を思ったのか。その歌割りを決めたのは、ほかの3人をよく知る成田昭次だった。大阪での『パズル』と、音ができていく過程を二人でたどり、最後は録音スタジオから届く『ザ・ファイター』の話へ移った。

バラードの一節を、「私が?」
普段なら成田昭次など誰かがそばにいる。飲みに行ったことはあっても、二人きりで話す機会はほとんどない。前田と寺岡は、なぜか緊張すると挨拶し、前田は「ふたりっきりの空間なんていやーん!」と声を上げた。そのまま照れていても、最初の曲はかけなければならない。二人の思いから選んだのは、Rockon Social Clubの『Love Again』だった。
前田は、男闘呼組時代にも一曲をソロで歌ったことはあったと断ったうえで、みんなが歌う曲の中では、コーラスをしていたと説明する。この曲の一節を自分がメインで歌うと知った時は、「はい?私が?」と驚いたという。『翼をもがれた野郎ども』にも自分のパートはあるが、今回はとくにバラード。自分で大丈夫なのかと感じていた。
耕陽スイートな一部を任されて、ものすごく重責を感じながらレコーディングに行ったという記憶がある
寺岡が前年10月の男闘呼組のライブを見た時、のちにRockon Social Clubとなるプロジェクトはまだ先にあった。もし始めるなら、みんなで歌う形がよいと考えていたという。前田にも、皆の曲の中でメインを歌う所があるのかと思っていたが、なかったと知り、逆にファンには新鮮だったのではないかと尋ねた。前田は「前田耕陽ファン大喜びです」。寺岡も、それはよかったと喜んだ。どの声が前田なのか、そこにも耳を向けてほしいと曲を紹介した。
ONAIR:Rockon Social Club『Love Again』
迷わず決めた成田と、少し悩んでほしかった前田
曲が終わると、寺岡は哀愁のあるパートだったと声を掛けた。前田は「あれからどんな人生~」と自分の担当箇所を口ずさみ、なぜそこを自分に割り振ったのかと尋ねた。寺岡の答えは「基本すべて昭次君が決めました」だった。
二人でデモを作った時、成田昭次は、ほかのメンバーの分まで全部の仮歌を歌った。寺岡が歌い分けを相談すると、成田は、ここは前田、と次々に書き分けていった。前田は、その速さが気になる。



悩まず?



悩まず



もうちょっと悩んでほしかったところもあるんですけど
寺岡にとっては、ほかの3人を最もよく知る成田だからこその分担だった。成田なりに、ここなら合うと考えている。前田が、自分はバラードを上手に歌えないと本人にこぼした時も、返ってきたのは「チャレンジ、チャレンジ」だったという。
不安はあったが、寺岡が加わり、みんなに歌う部分があることは斬新だった。今後もこの形にするのかと前田が尋ねると、寺岡もそうするのがよいのではと答える。前田には、その先も楽しみで仕方がない。単に出番が増えたというだけでなく、それまでの自分ならためらった歌にも向かう、新しいバンドの始まりだった。
7月1日には寺岡が、成田だけの仮歌へ一人ずつ声が加わり、4人になると別のエネルギーになったと話している。この日は、その一人だった前田から、任された重さと、歌うことへの期待を聞いた。
大阪の『パズル』、客席で4人の歌を確信した日
「3週連続、レアキャラ、耕陽さんスペシャル」の声を響かせる前田に、寺岡は「あのライブの寸劇」を思い出したという。台本にエコーとあれば、響く声を出した方がよいのでは、と前田。寺岡は、プロの声だと感心する。前田は、5月20日の誕生日サプライズでも、成田が負傷したふりをする台本を作った人。6月3日の回には、その仕掛けとメンバーの反応が残る。
この日で寺岡は、番組で全員と組んだことになった。前田は、最後の相手らしくラスボス感満載でしゃべると宣言した。
一緒にレギュラー番組をしていても、二人が出会ってからはまだ一年ほど。きっかけはBillboard Live OSAKAでの成田の公演だった。ピアノを弾いてほしいと頼まれ、前田は資料でもらった『パズル』を聴いた。よい曲だと思い、譜面を求めると、難しいコードばかりだった。
※コードは和音のこと。AやCmなどの記号で、重ねる音の種類を表す。
歌詞にも心を動かされたが、その歌を自分のピアノ一本で支えてよいのか。成田に確かめると、ぜひ弾いてほしいと言われた。舞台の曲作りで鍵盤を触ることはあっても、大勢の前で生のピアノを弾くのは長くしていなかった。寺岡には落ち着いて見えていたが、「脇汗すごかったです」と前田は明かした。
客席にいた寺岡には、二人の演奏と歌詞が重なって聞こえた。



あれはすごい感動して、これは絶対4人でやったほうがいいなって確信した日でしたね
二人でこれほど響くなら、全員で歌えばさらに伝わるのではないか。その思いは、のちに実現した。放送の時点では、男闘呼組のライブの最後にも演奏する曲になっている。前田は、音楽から離れていた成田が再び始める時、この曲に出会えたことにドラマを感じていた。



『本当に素敵な曲をいただいたな、昭次は』って思ってたんです
この大阪公演は、2022年4月5日の『犬も歩けば棒に当たる』。アンコールで、前田のピアノに成田が歌を重ねた。


5月13日には成田が、歌詞を読んだ時から最終的に4人で歌う曲だと思ったと話し、6月3日には岡本が、初めて聴いた歌詞に自分たちがいると感じたと語った。同じ曲を、前田は弾く側から、寺岡は客席から思い返した。
「俺弾くとこないじゃん」と思うほどのデモ
話は大阪の共演から、その後のアルバム『1988』の制作へ移った。録音は2023年1月。前田は、ライブが終わり、少し休めると思って家族旅行へ行ったと振り返る。帰ってくると、曲が全部できたと告げられた。もう十曲もあるのかと驚き、そのまま録音へ進んでいったという。さらに意外だったのは、届いたデモの編曲が、すでにしっかりできていたことだった。


以前なら、長く伸ばす白玉の音が入っていて、自分で好きにピアノを弾くことが多かった。ところが今回は、「俺弾くとこないじゃん」と思うほどに形がある。寺岡自身は、そこまできっちり作ったつもりではなかった。
※白玉は、全音符や2分音符など、長く伸ばす音を指す音楽用語。ここでは、細かな演奏を決め込まず、和音を伸ばしてある伴奏の話をしている。



ちゃんとやらないと見えないじゃないですか、どんなことやりたいか。だからある程度はやらなきゃくらいの感じだったんですけど
前田が挙げたのは、『遥か未来の君へ』の素敵なイントロと、『翼をもがれた野郎ども』のシンセサイザーの雰囲気だった。そのよさを、自分が勝手に変えてはいけないのではないか。



同じようになぞったほうがいいのか、それとも完全に違うものをレコーディングして送ったほうがいいのかって
※シンセサイザーは、電子的な仕組みでさまざまな音色を作る楽器。ここでは鍵盤で演奏する音色の話。
寺岡は、どんな音楽をやりたいかを伝えるために音を作る。受け取った前田は、そのよさを保つべきか、自分の弾き方を加えるべきかで悩んだ。同じデモを、作った人の意図と、弾く人の選択から振り返った。
50歳を過ぎたら、失敗を恐れず次の国へ
寺岡には、『Love Again』や『ただいま』を作る時にも、こういう曲を提案してよいのかという思いがあった。採用されなければ仕方がない、くらいに考えていたのに、皆が気に入ってくれた。前田には、ためらうような曲ではなかった。



いやだって、素敵な曲だもん。基本男闘呼組ってバラード多いんですよ。バラード好きなんですよ、みんな。特にああいう甘い歌詞自分たちで書けないから
寺岡は、そんなことはないと思うと返したが、前田は「ああいうのは提供していただいたほうがみんなも新鮮にできるんじゃないかなって」と続けた。
では、これからのRockon Social Clubをどうしたいのか。前田が先のビジョンを尋ねると、寺岡の答えは「ないんですけど」。ただし、一枚目と同じことをしても面白くない。アルバム『1988』で、こういう曲は怒られるだろうかと思ったバラードや『Te querrá mucho』まで受け入れられた。だから、さらに別の提案をする可能性もあるという。
『Te querrá mucho』は、ラテンの音楽を取り入れた曲。前田は、その曲から旅先を広げるように、南米だけでなく、いろいろな国へ連れていってほしいと望む。ヨーデル、ハワイアン、ウクレレ。寺岡は、アロハを着て、皆でフラダンスの振り付けをする曲まで想像した。



50過ぎたらなんでもチャレンジしたいじゃないですか。失敗を恐れない年になったかなっていう。そうしたらハワイ公演も夢じゃないですね?



確かに。1曲しかないですけど



1曲しかないけど。いいですね
夢の話から、今度は決まっている夏フェスへ。北海道で開かれる『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』へ、8月12日に出演すると告げた。野外で聴きたい曲を求められた寺岡は、瞬時にこれしかないと思ったという。サザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』。前田も、皆で声を合わせたいと喜んだ。


ONAIR:サザンオールスターズ『勝手にシンドバッド』
譜面を望む人と、30年ぶりに書き直した人
アルバム『1988』のバンドスコアを出してほしい、というメッセージが届いた。二人はよいのではと答えながら、実際に書く大変さを考える。普段使うのはコードの譜面だが、ピアノの音階まで各パートを細かく記すなら、別の作業になる。寺岡はドレミ出版の名前を挙げ、自分たちの譜面を渡せば出版社が起こすのではないかと話した。メンバーから新曲のスコアを求められたとしても、業者に頼むという。
※バンドスコアは、歌や楽器の各パートをまとめた楽譜。自分以外の演奏も見ながら、曲全体をたどれる。
前田には、耳で音を拾い、こうだろうと演奏してもよいのでは、という考えもある。けれど寺岡は、便りの人はきちんとスコアで演奏したいのだと受け止めた。子育てをしながらバンドをする楽しさにも思いを向け、ぜひ続けてほしいと呼びかける。前田も同じ気持ちだった。
前田自身にも、復活に向けて譜面を書き直す、大きな仕事があった。30年ぶりの男闘呼組の曲を、覚えていないところからもう一度演奏する。昔の録音は譜面なしでしていたので、当時の譜面もそろっていない。かろうじて自分が持っていた分は新しく書き、なかった曲も起こした。
基本の和音なら分かっても、低い音の指定や付け加えた音まで聴き取ると、どれなのか迷う。「分数コード」「テンション」と前田が挙げたのは、そうした細かな響きだった。 持っていた譜面も、そのままでは合わないことがあった。



当時弾いてたのこうなのになってのが、今CDとあわせて弾くとなんかぶつかってる?え?なんか違う、これなにって。昔の譜面で、例えばm7ってなってるのがm7だとすげえ気持ち悪いとか。よくよく調べたら全然違うコードだったりとかがあったりしたんで結構大変でしたね
※m7は、和音の種類を示す「マイナー・セブンス」の記号。前田は、その記号どおり弾いても録音と合わない例として挙げた。
続いて前田が選んだ野外向けの曲は、ベッリーニの『サンバ・デ・ジャネイロ』。やはり南米の方の曲になったと、先ほどの話にもつなげて紹介した。
ONAIR:Bellini『サンバ・デ・ジャネイロ』
「ただいま」と「只今」、また録音スタジオから
終盤は前週と同じく、寺岡呼人の録音スタジオからのコメントに替わる。成田昭次が「僕ら、ただいまー」と言うと、岡本健一がすぐに止めた。



ただいまーじゃなくて、ただいま(只今)。ただいま(只今)ね



もう一回行きます



これ流そう。これ流そう
成田は、曲の『ただいま』を思い浮かべてしまったという。改めて名乗った3人が伝えたのは、前日7月21日に配信リリースされた『ザ・ファイター』のことだった。岡本は、買えばいつでも聴けると喜び、どんな人に向けた曲かを尋ねた。
寺岡が思い出したのは、群馬の男闘呼組のライブを見た帰りの車だった。自分が仮歌を入れた、できたばかりの音源を、「うちのボス」が大きな音で聴こうと提案した。初めは「戦え」ではなく「抗え」だった言葉に、分かりづらいという意見が出た。寺岡は悔しく思いながらも、「戦え」に変え、それがよかったと振り返る。
その群馬公演は、『男闘呼組 2023 THE LAST LIVE』の2023年5月14日、ベイシア文化ホールでの公演にあたる。
用意されたゴールを、自分で引きちぎる
テーマにしたのは、時間の流れのように、人間が逆らえないものだった。そこへどう向き合うかを、寺岡は説明した。



そこにどれだけ自分が戦っていくかっていうか、あらがっていくか、っていうテーマの曲があるといいと思ったんですよ。僕ら50代だし
普通なら諦めると思われることにも、自分たちが歌うロックで向かいたい。岡本も、定年や退職が近づく年代を思い浮かべた。成田は、イントロから燃えて、歌いながらファイティングポーズを取りたくなるという。
ONAIR:Rockon Social Club『ザ・ファイター』
曲が終わると、寺岡はロバート・デ・ニーロの映画『レイジング・ブル』を思い出した。「一番最後に太ったデニーロが鏡に向かってシャドウボクシングするあれ思い出したね」と、自分の記憶に残る場面を挙げる。年を取ってもファイティングポーズを取る姿が、この曲に重なったのだった。
成田のお気に入りは「ゴールテープを引きちぎる」という言葉。ザ・ファイターのその箇所には、寺岡も、用意されたゴールを自分で引きちぎる絵が見えるという。しかも、そこを歌うのは高橋和也。本当に引きちぎりそうだと話し、成田も、その姿を想像できると応じた。



歌詞がね、やっぱり50過ぎてるから響くんでしょうね
成田は50代の重みだと受け、寺岡は、この感覚が伝わる人もいるはずだと思っていた。前週のコメントでは、まだ曲を仕上げる途中だった3人。この日は、曲を流したうえで、変えた言葉と、今の年齢だから歌える思いまで届けた。
新曲の感想も寄せてほしいと呼びかけ、翌週は前田と高橋の組み合わせを予告した。成田や岡本と再会する前から、二人は寄り添っていたという。寺岡も、高橋から一番相談を受けるのは自分だと、前田が話していたことを紹介する。岡本は「聴いてくれるからでしょうね、耕陽がね」とうなずいた。最後は4人の名前で番組を結んだ。


















