『参』(さん)は、日本のロックバンド・男闘呼組の3枚目のスタジオ・アルバム。1990年3月28日にBMGビクターよりリリースされ、オリコン週間アルバムチャートで1位を獲得した。メンバーによる自作曲が増加し、バンドの音楽性がより明確に打ち出された転換期の作品として位置づけられる。シングル「DON’T SLEEP」、及び別バージョンの「CROSS TO YOU -雨-」を収録。
概要
『参』は、男闘呼組にとって3枚目のオリジナル・アルバムである 。1990年3月28日に、当時のレコードレーベルであるBMGビクターからCD(品番: R32H-1090) およびカセットテープ の2形態で発売された。
商業的には大きな成功を収め、オリコン週間アルバムチャートでは最高順位1位を獲得した 。これはバンドにとって重要な達成であり、彼らの人気と実力を示すものであった。同チャートには合計8週間にわたってランクインし 、当時の高い支持を裏付けている。本作は、オリコンチャートで最高2位を記録したデビューアルバム『男闘呼組』(1988年)、そして『男闘呼組 二枚目』(1989年6月28日発売) に続く作品であり、音楽シーンにおけるバンドの確固たる地位をさらに固めるものとなった。
本作は、バンドの活動初期、いわゆる「前期」に分類されるアルバム群(『男闘呼組』、『男闘呼組 二枚目』、そして本作『参』)の最後に位置づけられることが多い 。しかし、単に前期の一作としてだけでなく、メンバー自身が作詞・作曲を手掛ける楽曲が増加した点で、よりセルフプロデュース色が強まる後期(『I’m Waiting 4 You』以降)への過渡期的な性格を持つ重要な作品と見なすことができる 。特に高橋和也や成田昭次による楽曲が多く収録されている点はファンからも評価されており 、メンバーの創作への関与の深化は、バンド独自の音楽的アイデンティティを確立していく上での重要なステップであった。
ジャニーズ事務所に所属するグループでありながら、本作では従来のアイドル的なイメージとは一線を画し、「男っぽい」と評される ロックサウンドを前面に押し出している。ファンからは「荒削りな中に見える繊細な感性」 といった評価も得ており、力強さだけでなく表現の幅も感じさせる。この音楽的方向性がオリコン1位という商業的成功に結びついたことは 、グループが志向する音楽と市場の受容が見事に合致した例と言えるだろう。
アルバムには、先行してリリースされたシングル楽曲が収録されている。1989年8月2日リリースの両A面シングル「CROSS TO YOU/ROCKIN’ MY SOUL」から「CROSS TO YOU」が収録されたが 、アルバム版は「CROSS TO YOU -雨-」と題され、シングルとは大きく異なる構成のバラード・バージョンとなっている 。また、1990年1月24日リリースのシングル「DON’T SLEEP」も収録されているが 、こちらもアルバム収録にあたり、2番のボーカルパートがシングル版での高橋和也から岡本健一に変更されるというアレンジが加えられている 。これらのシングル曲に対するアルバム収録時の変更は、単なる再録に留まらず、アルバム全体の流れや表現を考慮した意図的な再構築が行われたことを示唆している。特に「CROSS TO YOU」の大幅なアレンジ変更は、アルバム独自の雰囲気や世界観を重視する制作姿勢の表れと考えられる。
当時の評価としては、アイドル特有の要素が薄れ、男っぽさが強調された楽曲群であること、メンバー自身が多くの楽曲制作に関与している点、そしてアルバム全体を貫くギターサウンドなどが特徴として挙げられている 。
収録曲
全編曲(特記除く):Mark Davis
- BREAK THE LAW
作詞:成田昭次 作曲・編曲:MARK DAVIS - 自分勝手
作詞:高橋一也 作曲:成田昭次・高橋一也 編曲:男闘呼組・MARK DAVIS - 狂おしく むなしく
作詞:岡本健一 作曲・編曲:MARK DAVIS - DON’T SLEEP
作詞:大津あきら 作曲:馬飼野康二 編曲:Mark Davis - STAY WITH ME
作詞:JIM STEELE 作曲:SAMUEL MOORE 編曲:SAMUEL MOORE・男闘呼組 - OVER THE RAIN
作詞:大津あきら 作曲・編曲:MARK DAVIS - BACK IN THE CITY
作詞:高橋一也 作曲:成田昭次 編曲:男闘呼組・MARK DAVIS - NEVER SAY GOODBYE
作詞:松井五郎 作曲・編曲:MARK DAVIS - CROSS TO YOU -雨-
作詞:平井森太郎 作曲・編曲:MARK DAVIS - THE REAL
作詞:安藤芳彦 作曲・編曲:MARK DAVIS - REIKO
作詞・作曲:高橋一也 編曲:男闘呼組・MARK DAVIS - 雨に抱かれて
作詞:高橋一也 作曲・編曲: MARK DAVIS
楽曲解説
- DON’T SLEEP:先行シングルとしてリリースされた楽曲 。アルバムバージョンでは、シングル版と異なり、2番のボーカルパートが高橋和也から岡本健一に変更されている 。この変更は、アルバムという作品単位でのメンバーの役割分担や表現の多様化を意図したものかもしれない。
- STAY WITH ME:江崎グリコの「アーモンドチョコレート」CMソングとして使用されたタイアップ曲 。作詞・作曲クレジットに「男闘呼組」の名前が含まれており、外部ライターとの共作ながら、バンド自身のクリエイティブな要素が反映されていることを示している。
- BACK IN THE CITY:作詞を高橋和也、作曲を成田昭次が担当 。編曲クレジットにはMark Davisと並んで「男闘呼組」が記されており 、アレンジ面においてもバンドメンバーのアイデアが反映された可能性を示唆している。
- CROSS TO YOU -雨-:シングル「CROSS TO YOU」 とは大きく異なるアレンジが施されたバラードバージョン 。シングル版の作詞は大津あきらであったが、アルバム版では平井森太郎が作詞を担当しており 、歌詞の内容も変更されている点が注目される。シングルヒット曲をあえて異なる形で収録することで、アルバムとしての深みや物語性を付加する意図があったと考えられる。
- REIKO:高橋一也(当時の高橋和也の表記)が作詞、Mark Davisと男闘呼組が作曲でクレジットされている 。楽曲の構成や雰囲気について、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの代表曲「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を彷彿とさせるとの指摘もあるロックチューンである 。作曲にバンド名がクレジットされていることからも、バンド主導での制作がうかがえる一曲である。
音楽性と制作
サウンドと音楽的特徴
アルバム『参』は、全体を通してギターサウンドが前面に押し出されており 、ハードロックやロックンロールからの影響を色濃く感じさせる、力強く「男っぽい」 サウンドを特徴としている。一方で、ファンによるレビューでは「荒削りな中に見える繊細な感性」 とも表現されており、単なるパワフルさだけではなく、メロディラインの美しさや歌詞に込められた叙情性、感情の機微といったデリケートな側面も持ち合わせていることが評価されている。
また、「CROSS TO YOU -雨-」のようにシングル曲を大胆にリアレンジして収録するなど 、楽曲ごとの個性を際立たせつつ、アルバムとしてのトータルな流れや多様性も意識した構成となっている。これにより、ロックバンドとしての勢いと、楽曲の持つドラマ性を両立させている。
メンバーによる自作曲
本作における最も顕著な特徴の一つは、メンバー自身による作詞・作曲の比重が、それまでの作品と比較して大幅に増加した点である 。これは、バンドが単に楽曲を演奏するだけでなく、自らの音楽を創造する主体へと変化していく過程を示す重要な指標と言える。
具体的には、高橋和也(高橋一也名義)が「自分勝手」、「BACK IN THE CITY」、「REIKO」、「雨に抱かれて」の作詞、そして「自分勝手」、「STAY WITH ME」、「REIKO」の作曲(共作含む)に関与している 。成田昭次は「BREAK THE LAW」の作詞、「自分勝手」、「BACK IN THE CITY」の作曲(共作含む)を担当 。岡本健一は「狂おしく むなしく」で作詞を手掛けている 。さらに、「STAY WITH ME」、「BACK IN THE CITY」、「REIKO」の3曲では、作曲や編曲のクレジットに「男闘呼組」としてバンド名が記載されており 、特定のメンバーだけでなく、バンド全体として楽曲制作に取り組む姿勢が強まっていたことがうかがえる。このメンバー主導の楽曲制作へのシフトは、後のセルフプロデュース中心の活動へと繋がる萌芽であった 。
プロデュースとアレンジ
アルバム全体のサウンドプロダクションにおいては、アレンジャー(編曲者)としてクレジットされているMark Davisが中心的な役割を果たしたと考えられる。収録された12曲中11曲で編曲を担当(うち「BACK IN THE CITY」と「REIKO」の2曲は男闘呼組との共同クレジット)しており 、アルバムに一貫したサウンドの質感を与えている。
Mark Davisの起用は、メンバーによる作詞・作曲が増え、バンド本来のロック志向が強まる中で、楽曲を商業的なレベルに引き上げ、サウンド全体の統一感を保つ上で重要な機能を持っていたと推察される。つまり、メンバーが生み出した楽曲の「原石」を、経験豊富なアレンジャーがプロフェッショナルな手腕で磨き上げ、完成度を高めるという制作体制が採られていたと考えられる。これは、メンバーの創作意欲と、レコード会社が求めるであろうクオリティとのバランスを取るための戦略であった可能性もある。
制作背景
本作に関する詳細な制作エピソードは、現存する資料からは多くをうかがい知ることは難しい。しかし、前作『男闘呼組 二枚目』のリリース(1989年6月)から約9ヶ月という、比較的短い期間で本作がリリースされていることから 、当時の男闘呼組が非常に精力的かつ多忙な活動を展開していた時期の作品であることがわかる。メンバーによる自作曲が増加した背景には、単にキャリアを重ねたことによる音楽的な成熟だけでなく、バンドとして表現したい音楽世界がより明確になり、それを自らの手で形にしたいという強い意欲の高まりがあったものと考えられる。
Rockon Social Clubによるカバー
男闘呼組のメンバー(成田昭次、高橋和也、岡本健一、前田耕陽)が中心となって結成された Rockon Social Club は、2023年に男闘呼組の楽曲をカバーしたアルバム『2023』をリリースした 。このカバーアルバムには、本作『参』に収録されている楽曲の中から「自分勝手」と「BACK IN THE CITY」の2曲が含まれている 。これらの楽曲が、時代を経て新たな形で演奏・録音されたことは、原曲の持つ魅力が色褪せていないこと、そして男闘呼組時代の音楽が後続の活動においても重要な意味を持っていることを示している。
アカペラとハーモニーの継承:「STAY WITH ME」と「ただいま」
本作『参』に収録されている「STAY WITH ME」は、男闘呼組の楽曲の中でも特にボーカルワークが際立つ一曲であり、ジャニーズ事務所所属グループとしては珍しく、全編がアカペラで構成されている。メンバー4人の声による四声ハーモニーを存分に聴かせ、彼らの高い歌唱力とハーモニー能力を象徴する楽曲となっている。一方、後身バンドである Rockon Social Club が2023年にリリースしたアルバム『1988』には、「ただいま」という楽曲が収録されている。この「ただいま」もまた、アカペラパートとハーモニーを特徴としており、特にライブパフォーマンスでは、メンバー全員のアカペラハーモニーから始まるイントロが披露され、会場を温かい雰囲気で包み込んだと報告されている。楽曲のコーラス・アレンジは、浜田省吾との長年のパートナーシップで知られる町支寛二が手掛けている。ファンによるレビューでは、「ただいま」のアカペラパートや歌詞の内容が、男闘呼組時代からのファンとの繋がりやメンバーの帰還を感じさせ、感動を呼ぶと評されている。両楽曲に共通するアカペラや美しいハーモニーといった音楽的要素は、男闘呼組から Rockon Social Club へと受け継がれるボーカル表現の魅力と、その継続性をファンに強く印象付けている。
アルバム:参
アーティスト:男闘呼組(成田昭次・高橋和也・岡本健一・前田耕陽)
Released on: 1990.03.28
R32H-1090