『HIT COLLECTION』(ヒット・コレクション)は、男性アイドルロックバンド・男闘呼組の3枚目のベスト・アルバムである。1999年11月20日にBMGファンハウス(現・Ariola Japan)から発売され、解散から6年後に企画された作品となった。1988年から1993年に発表した代表曲とデビュー前のレパートリーを含む全16曲を収録している。
概要
男闘呼組は1980年代後半から1990年代前半にかけて活躍したジャニーズ事務所所属のロックバンドであり、当時のアイドルバンドブームを象徴する存在であった。デビュー曲「DAYBREAK」は初登場1位・約70万枚の大ヒットを記録し、以降も「TIME ZONE」や「CROSS TO YOU」などシングル4作連続でオリコン1位を獲得するなど人気を博した。ハードロックを基調とした力強いサウンドと複数メンバーによるボーカルワークで従来のアイドル像を打ち破り、後続のバンド系アイドル(例: TOKIO)にも影響を与えたと評価されている。1993年夏の活動休止後、本アルバムはそれから6年を経て「RCA名盤選書シリーズ」の一環としてリリースされたベスト盤であり、グループの全盛期を総括する内容となっている。収録曲は1988年のデビューから最後の作品まで網羅されており、特に後述のように公式音源化の少なかったデビュー前楽曲も含まれている点で貴重である。
収録曲
- DAYBREAK
- 秋
- TIME ZONE
- CROSS TO YOU
- DON’T SLEEP
- ROLLIN’ IN THE DARK
- ANGEL
- 眠りにつく前に
- THURSDAY MORNING
6枚目のアルバム『5-2…再認識…』収録バージョン。 - THE FRONT
- TOKYOプラスティック少年
- OVERTURE〜ルート17
- ロックよ静かに流れよ -Crossin’ Heart
- 第二章 追憶の挽歌
- Stand Out
- Midnight Train
音楽的な特徴
1. DAYBREAK
記念すべきデビューシングル。スピード感溢れるハードロック調のサウンドで構成されるが、「俺たちの夜が明ける」の部分でバラード調に一転する展開が強い印象を残す。MARK DAVIS(馬飼野康二)によるドラマティックなアレンジと、キャッチーなメロディが見事に融合している。“待たせたけれど”というフレーズは、デビューを待ち望んでいたファンへのメッセージとも受け取れ、感慨を誘った。オリコン1位、約70万枚のセールスを記録。4形態で発売され、それぞれカップリング曲が異なった(M-13〜M-16)。
2. 秋
「DAYBREAK」のヒットを受けてリリースされたセカンドシングル。基本的なサウンドは前作の延長線上にあるが、1コーラス目のAメロをミディアムテンポ風に始めるなど、曲構成はより複雑化している。哀愁を帯びたメロディと、季節感を前面に出した歌詞が特徴。これもオリコン1位を獲得。バラード・バージョンも存在し、3rdシングル「TIME ZONE」のカップリングとして収録された。
3. TIME ZONE
時計メーカーのCMソングに起用された3rdシングル。サウンドは初期の中でも特にハードさを増しており、ギターリフもよりヘヴィになっている。ボーカルの凄み、特にシャウトや力強い歌唱が増し、コーラスの厚みも一層強調されている。MARK DAVISサウンドの一つの完成形とも言える楽曲。後にジャニーズJr.がダンサブルなアレンジでカバーしており、楽曲の持つポテンシャルの高さを示している。オリコン1位獲得。
4. CROSS TO YOU
デビューから4作連続でのオリコン1位を獲得したシングル。サビで転調するなど、デビュー曲「DAYBREAK」の持つドラマティックな構成を、よりダイナミックに発展させた楽曲。疾走感のあるビートと、キャッチーながらも力強いメロディラインが特徴。これもバラード・バージョンが存在し、アルバム『参』に収録されている。初期の男闘呼組サウンドの集大成的な一曲。
5. DON’T SLEEP
5thシングル。「TIME ZONE」のハードな方向性をさらに推し進め、ワイルドさを増したナンバー。一方で、メロディーラインにはそれ以前の楽曲よりも哀愁が色濃く漂う。これまでの連続1位記録が途切れ、オリコンチャートでは最高2位となった。サウンドのマンネリ化を指摘する声もあったかもしれないが、楽曲自体のクオリティは依然として高い。
6. ROLLIN’ IN THE DARK
ファーストアルバム『男闘呼組』収録曲。シングル曲とは異なり、よりストレートで荒々しいロックンロール・ナンバー。「ワイルドで行こう」(同アルバム収録)を彷彿とさせる、疾走感あふれる楽曲。作曲は“男闘呼組”とクレジットされており、メンバー自身の志向が反映されている可能性もある。リードボーカルは成田昭次が担当。初期のアルバム曲ながら、ライブでの定番曲でもあった。
7. ANGEL
本格的にメンバー自身が楽曲制作に関わるようになった転換期のシングル。高橋和也が作詞作曲し、成田昭次が作曲協力としてクレジットされているミディアム・バラード。歌詞は厭世感や死の誘惑といった、従来のアイドル・ポップスとは一線を画すシリアスなテーマを扱っており、“天使の白”が象徴する純粋さと危うさが同居する世界観が衝撃を与えた。チャートでは最高2位。この曲からバンドの音楽性は大きく変化していく。
8. 眠りにつく前に
3ヶ月連続リリースアルバムの第一弾『5-1…非現実…』からの先行シングル。岡本健一の作詞作曲による楽曲。官能の深淵を探るような甘美で退廃的な雰囲気を持つバラード。後半に向けて徐々に感情が高まり、ドラマティックに展開していく構成で、演奏時間は7分近い大作となった。岡本の持つ独特の美意識と世界観が強く表れている。
9. THURSDAY MORNING
連続リリース第二弾『5-2…再認識…』からのリードシングル。高橋和也の作詞作曲による、フォークロック調のナンバー。力強くダイナミックなバンドサウンドに乗せて、ノアの方舟伝説をモチーフにしたと思われる、壮大なスケールの物語が描かれる。高橋のソングライターとしての幅広さを示す一曲。
10. THE FRONT
連続リリース第三弾『5-3…無現実…』からのシングルカット。成田昭次の作詞作曲によるスロー・バラード。彼の作品の中では比較的メロディアスで親しみやすい曲調を持つが、「最前線」というタイトルが示す通り、歌詞の内容はシリアスで内省的。穏やかながらも強い意志を感じさせるボーカルが印象的。
11. TOKYOプラスティック少年
男闘呼組としてのラストシングルとなった楽曲。高橋和也の作詞作曲。硬質な打ち込みのビートとアコースティックギターのサウンドを融合させ、その上でラップともポエトリーリーディングとも取れる独特のボーカルスタイルを展開する。この斬新なアイデアは、彼らが活動停止直前まで音楽的実験を続けていたことを示している。「プラスティック」という言葉に込められた、現代社会や都市への批評的な視線も感じさせる。
12. OVERTURE〜ルート17
ファーストアルバム『男闘呼組』のオープニングを飾ったメドレー形式の楽曲。「OVERTURE」は分厚いシンセサイザーによる荘厳なインストゥルメンタルで、そこから間髪入れずに「ルート17」のアクセル全開のハードロックへと雪崩れ込む構成は、ライブのオープニングを想起させる。バンドの持つ勢いを象徴する一曲。
13. ロックよ静かに流れよ〜Crossin Heart〜
デビューシングル「DAYBREAK」のカップリング曲の一つ(4形態のうちの1枚に収録)。メンバー主演の同名映画『ロックよ静かに流れよ』の主題歌として、デビュー前から広く親しまれていたナンバー。ミディアムテンポで始まり、徐々にアップテンポへと盛り上がっていく構成を持つ。青春の切なさや情熱を感じさせる。
14. 第二章 追憶の挽歌
「DAYBREAK」カップリング曲の一つ。男闘呼組主演ドラマ『オトコだろッ!!』主題歌。前曲「ロックよ静かに流れよ」と同様に、ミディアムテンポからアップテンポへと展開する構成を持つが、「哀しみの夜が明けていく」という大サビのフレーズなど、歌詞やメロディの雰囲気はデビュー曲「DAYBREAK」の原型とも言える要素を含んでいる。
15. Stand Out
「DAYBREAK」カップリング曲の一つ。メンバー4人が揃って出演したドラマ『僕の姉キはパイロット』主題歌。デビュー前の楽曲に共通する特徴として、シンセサイザーサウンドが大きくフィーチャーされている点が挙げられる。後のハードロックサウンドとは少し趣が異なる、時代性を反映したアレンジ。
16. Midnight Train
「DAYBREAK」カップリング曲の一つ。これもデビュー前からステージやテレビ番組で披露され、ファンにはお馴染みだったバラードの名作。切ないメロディと情感豊かなボーカルが心に響く。デビュー前の持ち歌がこれほどまとまって音源化されているのは、ジャニーズ事務所のアーティストの中でも稀有な例であり、彼らがデビュー時点で既に多くのレパートリーを持っていたことを物語っている。
『HIT COLLECTION』総評
本作『男闘呼組 HIT COLLECTION』は、男闘呼組というバンドの軌跡を辿る上で、極めて重要な意味を持つコンピレーション・アルバムである。単なるヒット曲集に留まらず、彼らの音楽的変遷と成長の物語を凝縮して提示している。
まず、収録内容の網羅性が高い評価に値する。デビューから活動休止までの全シングルA面曲を収録しているため、彼らのキャリアの主軸となった楽曲群を時系列で追うことができる。さらに、「ROLLIN’ IN THE DARK」のようなアルバムの人気曲や、デビューシングルのカップリングとして発表されたデビュー前の重要レパートリー(「ロックよ静かに流れよ」など)を加えることで、シングルだけでは見えにくいバンドの多面性やルーツにも光を当てている。
この選曲と曲順は、結果的に男闘呼組のドラマティックな歩みを浮かび上がらせる。初期のMARK DAVISプロデュースによる、ハードロックとJ-POPの要素を融合させたキャッチーなヒット曲群。そして、「ANGEL」を境に訪れる、メンバー自身が作詞・作曲・アレンジを手掛けるようになった、よりアーティスティックで内省的な楽曲群への移行。この明確な変化を一枚のアルバムで体験できることは、本作の大きな価値である。それは、アイドルとしてデビューしながらも、真のロックバンドとしてのアイデンティティを模索し、確立しようとした彼らの葛藤と情熱の記録とも言える。
リスナーにとっては、往年のファンであれば彼らのキャリアを俯瞰し、思い出を再確認できる決定版ベストとして機能する。一方、後追いのリスナーや、Rockon Social Clubなどを通じて彼らに興味を持った新しい世代にとっては、男闘呼組の音楽的本質に触れるための最適な入門盤となるだろう。ライナーノーツで榊ひろと氏が指摘するように、本作は男闘呼組の「作品面での再評価」を促す上で、その音楽的実力を雄弁に物語る証拠集としての役割も果たしている。
総じて、『HIT COLLECTION』は、ジャニーズ事務所の歴史の中でも特異な存在であったロックバンド・男闘呼組の功績を、商業的な成功と芸術的な探求の両面から捉えた、秀逸なアンソロジーである。彼らが日本の音楽シーンに残した、短くも鮮烈な軌跡を理解するための、必聴盤と言えるだろう。
Rockon Social Clubによる再解釈:「2023」
このアルバムには、本作『HIT COLLECTION』にも収録されている「ANGEL」や「THE FRONT」を含む、男闘呼組時代の楽曲8曲が収録されている 。特筆すべきは、単なる再録音に留まらず、現在の彼らの演奏力と解釈によって楽曲がアップデートされている点である 。特に、オリジナルとは歌割りが変更され、メンバー4人全員がボーカルをとる新たな構成になっていることが大きな特徴と言える 。これは、30年以上の時を経て、メンバー個々がミュージシャンとして成長した証であり、楽曲に新たな深みを与えている 。
参加ミュージシャン
前田耕陽 – ボーカル、キーボード
成田昭次 – ボーカル、ギター
高橋一也 – ボーカル、ベース
岡本健一 – ボーカル、ギター
江口信夫 – ドラム
平山牧伸 – ドラム
馬飼野康二 – キーボード
田中厚 – キーボード